夏目漱石『門』

【読書録】『門』(1910) 夏目漱石

7月の終わりから8月の頭にかけて読んでいた夏目漱石の『門』。留学中で電子書籍しか買えなかったこともあり漱石ばかり読んでいたんですが、恐らく電子書籍が続くのもこれで最後。最後にふさわしいとかそういったことは特に無いですが、今回読んだのはこの『門』でした。

 

物語は、中年の夫婦、夫・宗助と妻・御米を中心に進みます。妻の御米は宗助の学友であった安井の元内縁の妻。御米を宗助が奪ってからと言うもの、安井は姿をくらましてしまいます。
その背徳感を背負って夫婦生活を営んでいた宗助夫妻でしたが、地方生活が続いたために東京にいる叔父に一任していた父の遺産相続に関して問題が浮上します。
自分たちが金銭的な余裕のない生活を送る分には構わない宗助でしたが、叔父のもとに置いてもらっていた弟の小六をこれ以上学校へやるお金はないと叔父から連絡が入ります。「相続問題を任せ、こちらは大した金銭も受け取っていない。それなのに金が無いとは何事だ」と疑心暗鬼になる宗助。
そんな中、自宅の裏に住む大家の坂井と懇意になる中で危うく安井に邂逅しかけますが、消息を掴んだだけで、深い交わりになる最悪の事態は回避します。

そんな、背徳感と哀惜を過去に背負った他愛ない夫婦の日常を描いたのがこの『門』という作品です。

 

毎度のことながら、物語の設定が100年以上も前なのでピンと来ない話も幾らかあります。ですがそれでも、友人からその妻を奪い取ることによる背徳感や、お金のことで気を揉み親族関係がゴタゴタとするなど、物語の芯となる部分は現代でも起こり得そうな、どこかリアリティを感じることが出来ました。
自分が男なこともあり、どうしても宗助と将来の自分というものを重ね合わせて読んでしまう部分があったのですが、背徳感と後悔を背負いながらも泰然を装った暮らしぶり、そして安井の登場によって夫婦にもたらされる激しい動揺。こういったものにはどこか胸を打たれるといいますか、強く印象に残りました。

 

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