芥川竜之介 トロッコ

【読書録】『トロッコ』(1922) 芥川竜之介著

芥川竜之介の短編小説『トロッコ』。発表は1922年(大正11年)。
芥川の作品の多くは短編小説で、この作品もその中の一つ。読み切るまでどれぐらい掛かったか記録は付けてなかったんですが、体感的には15分ほどだったかと思います。

あらすじ

短編なのであらすじだけで話が完結していしまうんですが、少し。
主人公は、30歳ほどと思われる男性、良平。話のほとんどは良平の8歳時の回想です。

工事に使われるトロッコが大好きだった良平少年。あまりにもトロッコが好きなので見ているだけでは飽き足らず、土工に「トロッコを押すの手伝うよ」と声を掛けます。すると工員は良平の手伝いを快諾。以前に深夜にトロッコに乗っているのがばれ怒られた良平でしたが、ついに合法的にトロッコに触れることが許されたのでした。
「触るだけなら大丈夫だろう」と工員に声を掛けた良平でしたが、思いがけず下り坂では工員と共にトロッコに飛び乗ったりして、気づけばずいぶん遠い場所まで来てしまったのでした。「遅くなると親が心配するから」と、工員は良平に家に帰るように告げます。しかし今いる場所は家からはるか遠い場所。トロッコで遊ぶことが出来てウキウキだった良平に、暗闇の中、気味の悪いトロッコ道を家まで帰るという試練が訪れます。
しかし良平は走りに走って無事に自宅へとたどり着き、大泣きします。
このエピソードが現在の良平の頭には、塵労に疲れた際には不意に浮かぶのだといいます。

これでお話は終わり。

 

感想

芥川は最後の段落をこう締めくくっています。

 良平は二十六の年、妻子さいしと一しょに東京へ出て来た。今では或雑誌社の二階に、校正の朱筆しゅふでを握っている。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思い出す事がある。全然何の理由もないのに?――塵労じんろうに疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。…………

このことから分かるのは芥川が、塵労というものを線的に捉え、さらに、トロッコの回想中に現れた薄暗い藪や坂道とも重ね合わせているということ。もちろん塵労=暗いものというのはその通りですが、回想中の良平の感情の起伏(+深夜のトロッコ→-叱られる→+合法的に触れるように→++最高潮→-自宅への帰路)が人生というものの浮き沈みともリンクし、トロッコ自体を人生に見立てているような部分もあるのではないかと感じました。
20分で読み終わる作品ですので、ぜひ読んでみて下さい。AmazonのKindleアプリで、スマホでも無料で読めます。

 

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